全国で頻発している水害
日本では近年、地球温暖化に伴う気候変動の影響により台風や豪雨の激甚化が顕著にみられ、大きな水害が頻繁に発生しています。特に「短時間豪雨」や「線状降水帯」による河川の氾濫や都市部での浸水被害が目立っています。
特に被害の大きい水害事例
2018年6~7月 西日本豪雨
特に広島県、岡山県、愛媛県を中心に広範囲で大規模な河川の氾濫や土砂災害を引き起こし、多くの死者・行方不明者を出すとともに、甚大な物的被害をもたらしました。
被害額:約1兆2,150億円 人的被害:死者237名 全半壊等:18,129棟、住宅浸水28,619棟。
2019年10月 令和元年東日本台風豪雨
東北から関東甲信越地方を中心に広範囲な(特に宮城県、福島県、栃木県、長野県など)河川の氾濫やがけ崩れなどが起こり甚大な被害をもたらしました。
被害額:約1兆8,600億円 人的被害:死者91名 家屋被害:全半壊等31,336棟、住宅浸水29,556棟
2020年7月 令和2年7月豪雨
西日本から東日本にかけて広い範囲で長期間にわたる大雨となり、特に九州地方(熊本県、鹿児島県、福岡県、大分県など)を中心に河川の氾濫、深刻な浸水被害、土砂災害が発生し甚大な被害をもたらしました。
被害額:約6,600億円 人的被害:死者86名 家屋被害:全半壊等約7,000棟、住宅浸水約9,000棟
2021年8月 停滞前線豪雨
特に福岡県、佐賀県、長崎県、広島県、島根県など、西日本を中心に広範囲で河川の氾濫や内水氾濫による浸水が発生しました。特に佐賀県武雄市や大町町などで大規模な浸水被害が見られました。
被害額:約2,400億円 人的被害:死者13名 家屋被害:全半壊等約2,500棟、住宅浸水約10,000棟
2022年8~9月 停滞前線豪雨
令和4年8月、停滞前線と台風の連続的な影響により、北陸〜東北(新潟県、福井県、石川県、山形県、青森県など)を中心に記録的な大雨が発生し、河川氾濫や都市内水氾濫による広範囲な浸水被害が生じました。
9月には台風14号の影響で宮崎をはじめとする九州地方を中心に河川の氾濫、大規模な浸水被害が発生。同9月に台風15号の影響で静岡県を中心に河川の氾濫、浸水被害、土砂災害が発生。
被害額:約6,100億円 人的被害:死者10名 家屋被害:全半壊等約2,200棟、住宅浸水約15,000棟
2023年6~7月 停滞前線豪雨・梅雨前線豪雨・九州北部豪雨
特に、静岡県、愛知県、福岡県、大分県、佐賀県、長野県、秋田県など、広い範囲にわたって豪雨による河川氾濫・都市内水氾濫に大規模な浸水被害が生じました。
被害額:約6,800億円 人的被害:死者20名 家屋被害:全半壊等約1420棟、住宅浸水約9,800棟
2024年7月 停滞前線豪雨 9月奥能登豪雨
7月豪雨では山形県、秋田県を中心に河川の氾濫、広範囲な浸水被害が発生。9月には、同年1月に発生した石川県能登半島地震からの復旧途上にあった地域を豪雨が襲い、甚大な被害をもたらしました。
被害額:非公表(大被害) 人的被害:死者21名 家屋被害:全965半壊等棟、住宅浸水2,560棟
近年の水害の特徴

近年、日本の水害には以下のような特徴が見られます。
激甚化・頻発化
毎年のように甚大な水害が発生しており、2008年から2017年の10年間で、全国の約97%の市町村で1回以上の水害・土砂災害が発生し、半数近くの市町村では10回以上発生しています。特に、近年は「ゲリラ豪雨」と呼ばれる局地的な集中豪雨や「線状降水帯」の発生が増加傾向にあり、短時間で猛烈な雨が降ることで、河川の急激な増水や内水氾濫、土砂災害を引き起こしています。
都市型水害の増加
河川の氾濫だけでなく、都市部での浸水被害(内水氾濫)が増えています。これは、都市化によって地面がアスファルトやコンクリートで覆われることで雨水が地面に吸収されず、排水溝や下水道に大量の雨水が一気に流れ込むためです。その結果、下水処理能力を超えてしまい、道路や建物の低地部に水が溢れ出す現象が発生します。特にアンダーパス(地下道)や地下施設では浸水のリスクが高く、被害が深刻化しています。
今後も、雨の降り方が極端になる傾向は続くと予測されており、洪水や土砂災害のリスクが増大すると考えられています。また、海面水位の上昇は高潮や海岸浸食のリスクを高め、河川への塩水侵入による取水障害や生態系への影響が懸念されています。
水害対策の現状
このような状況を受け、水害対策はハード対策(堤防、ダム、遊水地などの整備)だけでなく、ソフト対策も重視されるようになっています。

ハード対策
ダムや遊水地による洪水調節、放水路の建設、河道掘削、堤防強化などが引き続き行われています。老朽化した施設の長寿命化計画も進められています。
ソフト対策
リアルタイム監視と情報提供: スマートセンサーの導入による水位のリアルタイム監視や、緊急速報メールを活用した洪水情報のプッシュ型配信エリアの拡大など、迅速な避難勧告・情報提供体制の強化が進められています。
ハザードマップの活用と周知
ハザードマップとは自然災害が発生した場合の被害想定区域や避難場所、避難経路を地図上に示したものです。住民に対して、居住地の災害リスクや取るべき避難行動を周知するため、ハザードマップの活用が推進されています。
タイムラインの策定
自治体や関係機関が連携し、災害発生時に迅速に動けるように、あらかじめ行動計画(タイムライン)を策定する取り組みが進んでいます。
これからの水害にどのように対処していけばよいのか
被害が激甚化する一方で、政府や自治体ではダムや遊水地による洪水調整、下水施設の強化、ハザードマップ整備など対策が進行中です。日本は地理的・気候的な特性から水害が発生しやすい国であり、今後も気候変動の影響でリスクは高まると予測されています。
そのため、国、自治体、そして住民一人ひとりが連携し、「避難行動の明確化」や「マイ・ハザードマップ」を活用した事前準備が求められます。
具体的な対策としては、以下のような例が挙げられます。
●情報収集:気象庁や地方自治体の防災情報を収集する方法を準備し早期に危険を察知できるようにしておく。
●ハザードマップの確認と避難計画の作成:浸水想定区域に含まれているか確認し、避難場所・避難経路を作成しておく。
●危険を感じたら早めの避難:自治体からの避難情報が発令された場合は、速やかに避難する。自宅の2階以上が安全な場合、無理に避難所へ行かず、自宅の上階に避難する「垂直避難」も有効な選択肢となる場合がある。
●物理的な浸水対策:止水板・土嚢を準備し、玄関など建物の出入り口や地下室への水の侵入を防げるようにする。
●地域との連携:地域の防災訓練に参加し、住民同士で協力体制を築く。近所の高齢者や要配慮者の安否確認や避難支援について、日頃から話し合っておく。
●保険の検討:火災保険に付帯する水災補償など、浸水被害に対応できる保険への加入を検討する。
これらの対策を講じることで、水害による浸水などのリスクを軽減し、命と財産を守ることに繋がります。